2015年5月8日金曜日

世界の金融の歴史を概観するのに最適な良書~「金融の世界史」





世界の金融の歴史を概観するのに最適な良書です。もともとがフジサンケイグループの「ビジネスアイ」に寄稿された記事なので、一つ一つ独立していて部分的に読むこともできます。

公正な立場から様々な事象を的確に捉えている印象を受けます。かつ姿勢が謙虚、語り口がソフトなので、読後感が心地よいです。本棚に置いておきたい一冊がまた増えました。



以下は概要です。

第1章では古代において資産の価値を牛で評価したことが紹介されています。もし利子の起源が牛など家畜の繁殖や穀物の収穫だと考えるなら、利子所得も所有者の当然の権利であると著者は主張しています。また牛が子牛を産み、その子牛がさらに子牛を産むことを考えるなら、利息の計算方法は複利であるべきとしています。これにはなるほどと思わず感心してしまいました。

第3章では、世界初のオプション取引としてギリシャ時代のオリーブ搾油機が紹介されています。このような原始的な例は驚きであると同時に、オプションが非常に身近に感じられます。さらにとても分かりやすくなります。

第4章は中世のヨーロッパの話です。当時キリスト教は現在のイスラム教のように利息を禁じていました。しかし奴隷の売買は問題なしとされていたようです。当時は肉体を束縛することは精神の救済に役立つという論理で正当化されていたようですが、現在の感覚から言うと非常に不思議ですね。ローマ・カトリックから見ると、イスラム教徒はもちろん、ギリシャ正教会、アングロ・サクソン人、スラブ民族のすべてが救済の対象だったようです。

第5章、第6章では大航海時代、東インド会社などと共にチューリップ・マニアについて書かれています。チューリップバブルといった方が分かりやすいかもしれません。世界3大バブルのうちのひとつですね。

第8章はミシシッピ会社と南海会社についてです。後者は南海泡沫事件で有名な会社ですが、当書籍ではこの事件についてはさらっと紹介している程度です。またこの章ではアメリカの取引所の起源となる団体が「すずかけの木の下」で発足したエピソードを紹介しています。発足は1792年ですが、1980年代まで実に200年近くに渡ってここで決定した委託手数料が採用され続けたとのことです。

第10章は19世紀イギリス、アメリカの話です。この時期に現在では当たり前となっている有限責任制がイギリスとアメリカで導入されます。それまでは無限責任でした。つまりもし会社が倒産し出資した金額で足りなければさらに資産を差し出す必要があったのです。したがって無限責任制ではかなりの資産家でなければ資本参加できませんでした。しかし、有限責任制の導入により、摘出した資本までの責任で良いことになり、株式の大衆化が一気に進みます。これにより大きな資本が必要な産業においても効率よく低金利で資本を調達できるようになるわけです。これは本当に重要な発明ですね。

第11章では日露戦争時の日本とロシアの資金調達事情について書かれています。日露戦争は第0次世界大戦とも位置づけられいるように、大きな戦費が必要となる世界初の近代戦でした。近代戦においては経済が戦争の勝敗を左右する事情が分かりやすく描かれています。その後の第一次世界大戦、ワイマール共和国のハイパーインフレーションなど、戦争や戦後の世界が経済・金融の側面から紹介されています。1929年の世界恐慌についてももちろん触れています。ここで興味深いのが大暴落した株価が回復するのに費やした時間についての考察です。大暴落前の高値を回復するのに名目の株価では25年もの歳月を費やしています。しかし、その間に物価は上昇していますのでインフレ率を考慮すると、実に約50年も回復できないままだったのです。著者は現在の市場参加者は大暴落を軽視し過ぎていると警鈴を鳴らしています。そしてバブルの物語を著したガルブレイズの言葉は印象的です。「人間の仕事の諸分野のうちでも金融の世界くらい、歴史というものが無視されるものはほとんどない」

第12章では大戦前後の日本の金融市場について描かれています。自国の戦争と株式市場との関係は本当に生々しいです。この歴史は参考にすることはないと願っていますが、戦後の預金封鎖については知っておいても損はないでしょう。

第13章は金ドル本位制(ブレトン・ウッズ体制)とその崩壊についてです。今では変動為替相場制が常識ですが、当時は固定為替相場制が当たり前でした。

第14章で日本のバブルとその崩壊について述べています。プラザ合意後に資産インフレ下にありながら円高により消費者物価などのインフレ指標が上昇しなかったとあります。この一因となった非金融一般企業への特金の解禁は南海会社事件などのバブルと同じ構図だったといいます。

第15章ではファイナンス理論がウォール街に適用されていく歴史を紹介しています。効率的市場仮説に従うとマーケットを出し抜くのは不可能であり、インデックスファンドが最も効率的とされます。これにバフェットが反論するグレアム=ドッド村の話はあまりにも有名です。結果的に市場は「まったくの」ランダムでも「完全に」効率的でもないが、効率的市場仮説はある程度正しいというのが本当のところのようです。本章では金融に関しての理論的なアプローチの歴史がギュッと凝縮されており、ここを読むだけでも充分この本の値段分の価値があると思います。

本当に良い本でした。


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